地方の企業や街づくりを参考に

 横山町奉仕会(西沢郷会長)と東京問屋連盟(三上明夫理事長)で構成する問屋街活性化委員会(三上明夫会長)は3月22、23日、研修旅行で岩手県岩手町を訪れました。地元で頑張る企業に学び、地域の街づくりに取り組む姿を肌で感じてきました。(村上信夫問屋街活性化委員会街づくりソフト委員会委員長)

世界50カ国で愛用される東光舎ブランド

 問屋街活性化委員会は、これからの問屋街の在り方や将来像を模索するために設けられました。岡田浩一明治大学経営学部教授のご指導の下、地方の企業や地域に学ぶ研修旅行を毎年行っています。今年は岩手県岩手町を訪れました。

 最初に株式会社東光舎(本社東京)の岩手工場を訪問し、井上研司社長からお話を伺いました。同社は1917(大正6)年の創業で、当初は医療用ハサミを製造していましたが、21年からは理美容ハサミに進出しました。東京で製造していましたが、住宅の増加で生産時の騒音が問題になり、81年に岩手工場を開設しました。現在、従業員は40名弱60〜70種類の理美容用ハサミを月間2000丁ほど生産しています。「ジョーウェルシザース」のブランド名で知られ、世界50カ国以上で愛用されているそうです。

 ヴィダル・サスーン(1928〜 2012)という人物をご存知でしょうか。世界的に有名なヘアスタイリストで、60年代に「ジオメトリックカット」という技術を開発し、業界に革命をもたらした人物です。それ以前の散髪と異なり誰でも同じようにカットでき、ヘアスタイルのセットもすぐ完了することから、女性の社会進出にも影響を与えたそうです。当然、理容ハサミの重要度が増していきました。日本の美容師たちが東光舎のハサミを持って英国の理容学校に留学するようになり、そこから海外での知名度が高まっていったそうです。

 海外での知名度が高く、今でも海外の売上げは国内を上回っています。現在は国内の売上げ拡大に取り組む一方で、競合他社と協力して模倣品対策やブランディングを強化しています。

 技術伝承にも力を入れています。熟練職人の手にセンサーを取り付けて、微妙な刃の咬み合わせや研ぎ具合などを計測したり、録画での作業記録等のデジタル化にも取り組んだりしています。

 その一方でアナログ的手法も興味深いものがありました。「当たり前は話題にものぼらない」として若手とベテランを積極的に会話させ、その作業が必要な理由、考え方、経緯、思いなどを伝えていきます。単なるマニュアルに終わらせないよう工夫されているのがとても印象的でした。

 

「街づくりは人づくり」掲げる岩手町

 次に岩手町の佐々木光司町長と職員の皆さんから街づくりについてのお話を伺いました。同町は人口約1万2000人。キャベツやホッケー、石彫のアート作品などが知られています。全国のほかの地域同様、人口減が進んでおり、「地域への愛着・誇りの醸成」「持続可能性の追求」「まちのブランド化」の三つを柱に「街づくりは人づくり」をモットーとして施策を進めています。

 私は佐々木町長にはたいへん「熱い」という印象を持ちました。東京の大学を卒業後、帰郷し町役場の職員として勤めていましたが、57歳で早期退職。東京のビジネススクールで学び、町長選挙に立候補されました。6期続いていた前職候補を僅差で破りました。現在2期目で、2期目は無投票だったそうです。

 佐々木町長は町内外の人に街の魅力を見出させ、愛着を感じる「シビックプライド=誇り」を醸成するために地域商社を立ち上げ、地場産品の開発でふるさと納税の増収に取り組んでいます。

 また、中心市街地の空き店舗を「フューチャーセンター」に改装し、地元金融機関や企業と連携して起業、創業の後押しを目指す取り組みをされています。新しいことを始めようとすると反対や抵抗が起こりがちです。そうした人は口先だけで対案すらもなかったりします。何もアクションを起こさずに衰退していくよりも何か一歩を踏み出すことが大事なのだと痛感しました。地元への愛と熱量で皆の目指す方向性を定めて一つずつ形にしていく。どんな組織でも当てはまることではないでしょうか。

 印象的だったのが、途中、道の駅「石神の丘」に立ち寄ったときに同行の職員の方がおっしゃった言葉です。

 「この道の駅、当時係長だった町長が高卒で入ったばかりの新人と組まされて、2人で立ち上げたんですよ。本当に大変だったと思いますね。まぁその新人って私なんですけどね(笑)」

 とても嬉しそうな顔で話してくれました。

 最後に今回の研修はいろいろな「ご縁」を感じたものとなりました。教え子、同級生、自社商品のユーザー、お客様のお店、セントパトリックスデーなど、初めてお会いしたのに、すぐに共通の話題が出て、初めての感じがしない岩手町の皆さんと問屋街とは実は奥州街道でつながっていて、何かに導かれて訪れた町だったのではないかと思います。業種も環境も異なりますが町の皆さんの取り組みに勇気を頂きました。お忙しい中、ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。