〜小売店と横山町奉仕会加盟商社の在り方と支援とは〜

■出席者

西沢郷氏(トーヨー社長、横山町奉仕会会長)、古川伸広氏(繊研新聞社記者)

沼田信暁氏(丸太屋執行役員営業統括本部長)、宮脇啓介氏(宮入取締役営業本部長)

  会 村上洋一(横山町問屋新聞編集部)

長く続いたコロナ禍、地球温暖化の影響による天候の変化、続いてきた物価高など、この間の社会状況によって人々の消費に対する意識は大きく変わった。ファッション衣料にとっては決して楽観できない状況が続いている。厳しい時代にあって、横山町奉仕会加盟商社は来街されて商品を仕入れる小売店をどのようにサポートしていくのか。いかにコミュニケーションを深めて、互いの商売を活性化していくのか。卸と小売店に求められる関係性とは何か。現状と今後を語ってもらった。

 

物価高で消費は低下、気温高く秋冬物は苦戦

●原材料高などで価格設定に苦慮

司会 コロナ禍が明けて、この秋冬物に対する期待は大きかった。

沼田 コロナ禍が収束して、旅行などで人が動き始めました。しかし、食料品をはじめとして電気代などのライフラインの値上げが続き、多くの人が消費に対して消極的になってしまった。私たちの扱う衣料では秋の立ち上がりのタイミングで倹約ムードが高まってきたように思います。多くの商品が値上がりする中で洋服はなかなか値上げできない。そこもまた厳しいところです。

古川 私は地方小売店やメーカーなども取材していますが、メーカーサイドもなかなか価格を上げることができません。テキスタイルの原材料費や光熱費が上がっている中で十分に価格転嫁できない状況が続いています。海外で生産しているメーカーは円安の影響が大きく、苦しい状況にあります。

宮脇 この秋冬物は気温がなかなか下がらず、取引先の小売店も私たち卸も厳しい状況にありますが、徐々に気温が下がり、リピート発注が入り始めて少しホッとしているところです。ただ、沼田さんがおっしゃるように、物価高騰の影響で消費意欲の低下を感じている小売店も多い。また、メーカーの値上げなどもあり、卸価格の設定は本当に難しい。ただ、この間の状況を分析してみると、意外と値上げした商品が売れたという話を聞きます。品質を維持していかないと消費者は買ってくれないという状況かもしれません。

西沢 店頭のワゴンで廉価な商品を置くと、以前は衝動買いというのが結構ありました。その衝動買いがかなり少なくなっています。以前は2着、3着と買っていたお客様が今は1着しか買わない。

 価格の話でいけば、この十数年間、定番で売っていたものが以前の価格では卸せなくなっています。ずっと695円で提供できていたものが、895円になってしまう。原材料高や運賃の高騰が影響しています。695円だったときには2000枚消化できた商品が、ワンシーズンで300〜400枚くらいになってしまう。

 一方で、新しい商品で利益が確保できる商品を仕入れていただくことができます。お客様がいいと思った商品に関してはしっかりと販売できて、追加が来た商品もあります。商品の目先を変えていくことが大事なのかなとも思っています。これが今までとは違うところと実感しています。

古川 販売の量を稼いでいた定番ほど価格を上げたいというのが本音です。その価格設定というのが本当に悩んでいます。今後もなかなか下げるというのは考えられません。特に春夏物は秋冬物に比べて魅力をつけにくい。そこを皆さんは嘆いています。

司会 コロナ禍でメーカーが生産量を絞った。売れている商品でも追加が難しい。

古川 生産量はかなり減らしましたし、在庫を持たないというメーカーが増えました。この秋冬物ではコートなどの販売が期待されました。しかし、11月に暖かい日が続いてスタートが遅れた。例年よりも1カ月くらい遅れている。

沼田 これから大手小売チェーンや量販店などはセールに入り、値下げします。小売店もそれに準じる。卸にとってはプロパー商品が売れる時期が短くなっている。

 

●多くの在庫を持つのが卸の強み

司会 丸太屋や宮入は先行して展示会や受注会を開いています。

宮脇 受注会を開く目的の一つは、店舗の商品構成や投入時期を小売店の皆様に伺うことです。意見をいっぱい集めたい。ある時期に仕入れたい商品を伺うことで、弊社の品揃えの参考にする。その計画を一緒に作ってくれるようなコミュニケーションを取っていきたいと考えています。ただ、シーズン前にMD計画を作成して商品をお仕入れされる小売店様がいらっしゃる一方で、時期が来てから現物をお仕入れされる小売店様もいらっしゃる。時期に合わせて、売れる商品を持っておくことも現金問屋の役割だと考えています。

沼田 小売店は昨日売れた商品で、似たようなものを探しにいらっしゃいます。横山町を訪れるのはそうした小売店が圧倒的に多い。丸太屋の強みは、やはり在庫です。品揃えです。どんなに売れなくても、何か売れる商品、新しいものがあるかもしれないという期待を持っていただいています。だから足を運んでいただける。

西沢 うちはほぼ全てがすぐに商品を店頭に並べたいという小売店です。その日に売れた現金で仕入れに訪れる。だからこそ在庫を積んで、その時期になったときに仕入れていただく。天候次第ですし、店頭を訪れるお客様次第です。売れれば仕入れにきますし、売れなければ店頭在庫を販売している。

古川 メーカーは在庫を減らしています。売れている商品があってもすぐに卸や小売店に商品を提供するのが難しくなっている。

西沢 横山町には現金問屋がある。これが最大の強みです。メーカーに直接発注しても商品が届くまでに1週間もかかってしまう。在庫を持たない問屋は、小売店からの注文を受けてからメーカーに発注します。だから商品がすぐに届かない。地方の小売店が横山町で仕入れるのはそういう理由です。

沼田 弊社の使命は「適時・適品・適量・適価」です。「今、必要」というニーズに最大限に応えていく。生産を絞り込んでも、メーカーはたくさんあります。仕入れるメーカーのローテーションを組んで商品を確保しています。その中で当たりを引くメーカーは不思議と出てきます。私たちはそこにアンテナを張っていく。

古川 在庫があるというのが横山町最大の武器。それを生かして次のシーズンを見据えながら小売店の仕入れを支援している。

 

商圏のニーズにマッチした小売店は伸びた

●大手撤退で新しいニッチが生まれる

司会 コロナ禍が明けて、好調な小売店は。

西沢 これまでの客層、自店の特徴を見直して、従来の層よりも少し若めをターゲットにして、それがうまくいった小売店があります。商圏の客層をしっかり分析して、そのニーズに応える品揃えがやはり大事なのかと思います。従来のお客様を大事にしながら、新しい客層の拡大にチャレンジしている。

宮脇 小売店が自店の商圏のお客様にピッタリとマッチしている、「うちの店の役割はこれだ」と理解しているお店は強い。商圏に年配のお客様が多いのであれば、その高い年代層の望む商品をしっかり揃えて、それをアピールしていく。それが結果となって現れた小売店もあります。ニーズに対して店の特徴を出しているところが好調です。それは品揃えでもいい、価格でもいい。商圏のニーズに合致していることが結果につながる。

沼田 量販店や大手チェーン店が品揃えを止めたり、マーク数を減らしたり。それを察知して成功した例があります。

司会 具体的には。

沼田 地域の量販店はスリッパをSSから5Lまで販売していました。MとLで売り上げの9割を占める。その他は1割程度です。コロナ禍でMとLだけに絞って他のサイズは切りました。でも、サイズを絞らなくても、効率が悪いだけで、売れないわけではない。そこに「新しいニッチ」が生まれました。ある小売店がM・L以外のサイズを扱うと、それを求めるお客様がやって来た。あちこちからやって来て、口コミで広がっていった。大きなヒントだなと思いました。その小売店は常に他店を観測しています。

古川 今、地方では、地域で唯一の百貨店が閉店するケースが増えています。その地域ではその百貨店にあった商品が買えなくなります。レディスの小売店が百貨店で扱っていた雑貨を新たに販売したというケースもありました。大型店が扱っていた商品を小売店が新たに集めるというのは一つの生き残り策になっています。今、極端に商品が少なくなっているのがメンズです。

司会 大手の撤退、変化はチャンスになる。

沼田 本当にチャンスだと思いますね。一人のお客様の口コミでもう一人がやってくる。「新しいニッチ」というのは競争相手がいない。競争なく売れる商品を独自に扱うことができます。

 

●会話にヒントが隠されている

古川 取材して見えてくるのは、地方の商店街でも地域の会話が減っているということです。小売店にあるのは商品ですが、そこには人がいて、集まってくるのも人です。お店を訪れるのは商品を買うためだけではない。やはり人に会って話がしたい。自分のお気に入りを見せに行きたい。比較的頑張っている小売店にはそうしたお客様とのコミュニケーションがあります。2、3時間世間話をして、最後に商品をお買い上げいただく。そういう店は強いという印象です。

沼田 量販店でテナントの人と会話なんてできません。ほとんどがセルフの売り場です。お客様が求めているのは商品だけではない。単なる買う場所には満足できないお客様はいます。

宮脇 小売店に会話が生まれると、人が集まってきます。人が集まると情報が集まる。そこから次の手を打つためのヒントが生まれるかもしれない。

西沢 確かにそうですね。小売店は「これはあの人にいいわね」や「サイズはこれで大丈夫」といったお話をされます。小売店は長く地域で商売をしてきて、たくさんの顧客を持っています。お客様との会話の中から「近くでこんな商品を売っているお店がないのよ」や「これを買うために車で1時間かけてショッピングセンターに行ってきたわ」などの会話ができれば、小売店の次の商品が見えてくるかもしれない。お店が顧客とのコミュニケーションの場になれば、いろいろなヒントが見つかりますね。

沼田 ニッチでも集めればそこには大きな市場があります。自店の大きな特色にもなります。買って帰ればお友達を連れてきてくれるかもしれない。目的の商品以外のものを買っていくこともあるでしょう。そうやって少しずつ顧客を増やしていく。それを私たち問屋がどこまで支援できるか。大事な課題だと思っています。

 

小売店とのコミュニケーションを深める

●卸は売れる商品を必死に探している

司会 コロナ禍を通じてお取引先とのコミュニケーションの取り方も大きく変わってきました。

沼田 コロナ感染拡大の少し前、バイヤー全員にスマホを支給して、お客様と個のつながりを強くするようにしました。LINEを使ってお客様と双方向のコミュニケーションを取る。商品が入荷するとお知らせする。すると「今度行くわ」とか「送ってくれる」と言ったリアクションが返ってくるようになった。コロナ禍では大きな力になりました。

宮脇 お客様がご来店できない、お客様と直接お目にかかれない状況の中で、お客様にどのようなニーズがあるのかをつかむためにLINEはもちろんですが、電話やメールなどでコミュニケーションを取っていきました。ワン・トゥー・ワンのコミュニケーションにより、離れた状況の中で、商売のやりとりができるように工夫してきました。コロナ禍が明けて、お客様に来街していただけるようになると、やはりいろいろな問屋が集積していることが大きな利点になります。商品のバリエーションが豊富で、情報もある。この街に来ていだくことが大事です。

西沢 スタッフが商品を選んで、「見計らい」で送ってほしいという要望が結構ありました。お客様は昔から仕入れていただいている小売店です。スタッフが小売店の方々のお店の様子や商品の特徴をよく知っている。電話をいただいたら、その店にマッチした商品を選ぶことができます。

宮脇 見計らいでちゃんと選べるのはすごい。

西沢 ちゃんと満足していただくためにみんな本気で選びます。だから返品の申し出は丁重にお断りします。頑張って、本気になって選び抜いた商品ですから、「頑張って売ってください」とお話しします。

古川 メーカーの展示会を訪れて、自分で選んだ商品を返品してくる小売店もあります。自分で選んで、合意した買取条件でも返してくる。

沼田 見計らいとはいえ、戻ってくるとやはり残念な気持ちになりますね。

司会 お客様のことを知り、スタッフが一生懸命に選ぶ。そして返品はない。そこまでの人間関係を作るのには時間が必要ですか。

西沢 良好な人間関係を築くのに長い時間は必要ないと思います。そのスタッフと息が合えばすぐに信頼してもらえる。お客様もスタッフを選びます。

沼田 やはり商品だと思います。前で売れる商品を選んで見計らい品を送っている。私たちは前で売れる商品を一生懸命に探しています。それをお客様に伝えきれていない。

宮脇 同感です。必死にやっていてもそれが伝えきれていないという思いはありますね。

古川 コロナ禍を契機にメーカーは取引先を整理してきました。在庫もそんなに積めなくなった。だから行儀の良い、信頼できる取引先に絞っていこうとしています。口座数は減ったけれども、一店一店との取り組みが太くなっていけばいいという発想です。利益とか中身を精査して、自社の特徴を出していくことで小売店と共に成長していきたいと考えているんです。

 

●卸としての強み、魅力を磨く

司会 問屋としての店作りについて。小売店の皆様に対して今後、どのようにアピールしていきたいとお考えですか。

宮脇 今、私たちがやろうとしているのは「宮入」という会社のブランド化です。ブランドものを扱うということではなく、「宮入に行けば揃っているよね」というイメージを小売店の皆様に浸透させていきたい。「グンゼだったら宮入で間違いない」「婦人のボトムならやっぱり宮入りだよね」。クオリティーのしっかりした商品を探すなら「宮入だ」ということが小売店の皆様の口の端に上るようにしていきたいと思っています。商品力を磨いて、小売店に仕入れていただく。それが売れる。そして追加発注してくださる。そうしたサイクルを作りたいと思っています。

沼田 「丸太屋は◯◯屋だ」と社員が言えるかどうか。これが大事。もっと細かく言えば、自分が立っている売り場は「◯◯屋だ」と認識する必要がある。社員にはそれを求めています。売り場にはプロがいるということを小売店にもっと知ってもらいたい。

古川 何でもありますというのは強みにもなりますが、弱みにもなる。あえて自店の価値を感じてもらえる「何か」を持つことも必要です。

沼田 この街にいらっしゃる小売店は、丸太屋はどういうところ、宮入はどういうところかを十分に理解されている。買うものを決めて街を訪れます。起業してこの街に仕入れに来るバイヤーなどにアピールしていくことが大事です。

西沢 先ほども触れましたが、従来の問屋に来ない小売店が少しずつ増えています。その人たちにどうやって店に来ていただくか。仕入れていただくか。その魅力を磨いていかなければならないと思っています。

 

●卸と小売店の情報共有が大事

司会 難しい時代です。変化のスピードが速い時代です。その中で小売店と卸が共存し、そして繁栄を共にしていくにはどうしたらいいでしょう。

西沢 やはり、お客様である小売店のことをもっと知ってあげる。よく知ってそのお店が稼げる商品を提案する。小売店に儲けていただかないと、横山町には来ていただけません。それを卸も小売店も、横山町奉仕会としても一緒になって考えなければならないと思っています。

宮脇 市場の変化がどんどんスピードアップしています。だからこそ、小売店の皆様との情報共有をもっと密にしていかなければならない。問屋街には商品が集まり、人も集まってくる。そこには情報が集まる。商品の生産状況やその在庫のほか、売り方で成功している小売店の話を聞くこともできます。成功していることばかりではなく、失敗談などもどんどん知らせてほしい。互いに考えていることを共有することで、共に出口を見つけ出していく。そのためのコミュニケーションが大事だと思っています。

沼田 消費者の価値観やライフスタイルが多様化しています。先ほど「新しいニッチ」とお話ししましたが、特定のニーズや価値観を持ったお客様に対して、売り場のコーナー、コーナーでそのニッチなものを集積した島をどれだけ作っていけるか。それをどうレイアウトしていくかが小売店にとっては大事になってくるのではないでしょうか。そして我々は生産者と卸、小売店から集まった情報を共有化して、それを商流に乗せていくことが大きな役割です。

 もう一つはデジタル化です。もう避けては通れない課題ですが、まだまだ敬遠している方は多い。そこをどうやって小売店の皆様にやっていただくか。そのお手伝いをしていくことで一段階また違った展開が見えてくるのではないかと思います。

古川 メーカーの負担だけが増えてもいけない。卸の負担が増えてもいけない。厳しい時代だからこそ、メーカーや卸と一緒に成長していこうという小売店がもっと増えてほしいと願っています。■