問屋街から見る消費、卸、小売りの現在地!!
〜気候変動や物価高にどう対応するか。卸と小売店の今年の戦略とは〜
■出席者
西沢郷氏(トーヨー社長、横山町奉仕会会長)、古川伸広氏(繊研新聞社記者)
沼田信暁氏(丸太屋執行役員営業統括本部長)、宮脇啓介氏(宮入取締役営業本部長)
司 会 村上洋一(横山町問屋新聞編集部)
物価高の長期化や気候変動の影響を受け、消費者の購買行動はより慎重さと二極化を強めている。こうした変化は、問屋街に日々仕入れに訪れる専門店の買い方や売り場作りにもはっきりと表れている。横山町奉仕会は、卸と小売りが共に生き残るための拠点として、現場の声を集め、課題を共有してきた。本座談会では、仕入れ判断や商品戦略の実情を率直に語り合いながら、小売店を支え続ける横山町の役割とこれからの商いの方向性を探った。
物価高で消費や専門店が変化してきた
●消費動向が促す専門店の変化
司会 昨年1年間を振り返って、最近の消費者の志向や小売店はどのように推移したでしょうか。
古川 コロナ以降の物価高で、やっぱり全体的に消費者の購買意欲は落ちてきていると感じますね。昔は「いいな」と思ったら5点くらいまとめて買うような動きもあったんですが、いまは2点程度に絞り込む。とはいえ、ファッション好きの方がいなくなったわけじゃなくて、金額や点数を抑えつつ、しっかり選んで買っています。買わないというより厳選しているというのが正確かなと思います。
西沢 昨年を振り返ると、3月頃から米の値上がりなど、生活必需品の価格上昇がテレビで繰り返し報道されました。消極的な情報が続くと、やっぱり65歳以上、70代といった年代層の消費意欲が一気に落ちると実感しました。実際、平均単価が下がり、シニア向けの商品の売上げは思ったほど伸びませんでした。年金で生活されている方が多い分、衣料費が真っ先に抑えられるという印象です。
一方で、50〜60代、もう少し若い層はそこまで消費マインドが落ちていない。それどころか、むしろ購買意欲が戻ってきている感じもあります。そういった流れを受けて、うちも65歳以上を明確に狙ったMDから、もう少し幅広い世代が着られる商品にシフトしています。
沼田 特に強く感じたのは、お客様である衣料小売店さんが明確に「二極化」してきたということです。徹底的に単価重視でとにかく安いものを探すお店と、価格よりも目新しさや提案性を重視して、新しい価値を求めていくお客様に分かれてきているということです。もちろん以前からこの両方のお客様はいたのですが、中間に位置していたミドルレンジのお客様がここに来て一段と弱くなっている。横山町に来街するのは一般の小売店さんですが、その普通の路面店でも安く良いものを探す層と新しさを求める層が明確に分かれてきています。
その背景には消費者の生活環境の変化があります。物価高で節約意識が高まる一方、ファッションへのこだわりや自分らしさを重視する層も健在で、むしろ価値で選ぶ傾向が強まっている。つまり既存顧客の中でも、いつもの商品を買いたい人と新しい提案を求める人の二極化が進んでいます。
宮脇 シーズンの初回導入に対する姿勢の違いがはっきりしてきました。とにかく早く立ち上がりの品番を入れておきたいという小売店さんと時期が来てから計画通りに仕入れるという従来型です。
背景にはメーカーの生産量減少があります。売れ筋ほど早く欠品してしまうため、早めに押さえたいというニーズが強まっている。一方で、通常通りのタイミングで仕入れる店も当然ありますから、我々としてはその両方に応えていく必要がある。売れ筋の見極めをより早く行い、商品計画を迅速に修正できる体制が以前より重要になっていると感じています。
古川 ここ数年の気候変動も影響しています。猛暑で秋物の立ち上がりが遅れたり、逆に急に冷え込んだ時には一気に実需が高まったり。一昨年から昨年年初にかけて小売店は、アウターが11月に入ってやっと動いたと思ったら、メーカーが作っていないので在庫が足りず、2月の寒波では「欲しいのに物がない」という機会ロスが起きた。慎重な消費と気候変動の揺らぎが同時進行しているという印象です。
西沢 さらに昨年は観光地で商売されているお客様に聞くと、万博に人が流れて、国内観光客が大阪に集中。その分、他の観光地の客数や購買に影響が出た面もあったと感じています。
沼田 この二極化はしばらく続くと思いますし、小売店さんとしてはどちらの顧客にどう応えるかがより明確に問われるタイミングに入ってきたと感じています。
宮脇 一つの傾向として、商品そのもののトレンドが「シーズンレス」「エイジレス」に向かっているという点です。季節の境目が曖昧になる中、幅広い年齢層に対応できる商品が求められ、小売店さんの選び方が変わりつつあると感じています。
気候変動によって従来の実売期が通用しない
●「前年と同じ」は通用しない
司会 気候の変化でいつ何を店頭に投入するかが難しい。
古川 昨年は10月中旬に東日本が一気に冷え込んだことで、アウターを探すお客さんが早い段階で動き始めた。10月は前年比較が難しいんですが、アパレル各社では久しぶりに『動いた』という実感が出てきたように思います。11月に入ると、西日本は気温が高めだったものの、コートのプロパーが着実に動き、全体としてはいい流れが続いている。実需の波が短い周期で来るので、店頭もより素早い対応が求められていると感じます。
沼田 気候変動の影響で、去年と同じ時期に同じ商品が同じようには動かない。メーカーさんも我々も前年踏襲が通用しなくなってきています。たとえばバイヤーの日報でも、去年の通りに進めても今年は全く違う結果になりました。季節感や立ち上がりが年ごとにズレてしまうため、同じ計算式ではリスクが大きくなってきています。気候が読めない分、仕入れのタイミングはより難しくなっていますし、去年の実績を見ながらの運用だけでは精度が出なくなっている。気温の急変や立ち上がりのズレを見極めながら柔軟に判断しないといけない時代になったと、あらためて感じています。
宮脇 気温の推移が大きく変わってきていて、従来のMDのままでは気候とのズレが生じ、そのひずみが売り場に出ていると感じます。
西沢 昨年は気温の上昇する時期が早かったので、思い切って3月から夏物を一気に展開したんです。3月はかなり暖かかったこともあって、半袖や綿のカットソーを入れたら、そのタイミングでしっかり需要があって、売り上げが早い段階から伸びていきました。結局、3月・5月・8月と、夏物を3回に分けて投入する形になりました。例年より1カ月ほど早い投入でしたが、気候の変化に合わせてMDを前倒ししたことが功を奏しました。
古川 夏物がとにかく長く続くようになっていて、極端に言えば3月から10月頭まで半袖でいい、という年もありますよね。店頭はそれに合わせて夏物を投入する必要が出てきているんですが、メーカー側がその都度、魅力ある商品を十分に用意できていないケースもあって、そこにギャップが生まれていると感じます。
さらに業界全体の慣習として、6月中旬からシークレットセール、7月には本格的なセールが始まる。いちばん夏物が必要なタイミングで値下げです。そうなると、8月や9月の頭に新しい半袖をプロパーで出しても、なかなか値が通らない。粗利も取れず、店側もメーカー側も苦しい状況になりやすいんですよね。
冬物についても同じで、1月にはセールに入ります。消費者側も長年そのサイクルに慣れてしまっているので、小売店がMDを変えようとしても簡単ではありません。結局、気候に合わせて店頭は変わってきているのに、業界全体の慣習が追いついていないことが一番の課題だと思っています。
沼田 夏が長いというより、春夏秋冬といった季節のグラデーションの濃淡が細かく分かれ、しかも毎年そのパターンが変わってきていると捉えたほうが現実的だと思うんです。今年はこのグラデーションだからこう動くだろう、でも来年はまた違う。その前提でMDを組む必要があると考えています。
●長い夏が変える商品戦略
司会 卸や小売店の商品戦略はどのように変化したのでしょうか。
古川 今は夏が長いというより秋物をどう厚くするかがアパレル各社の政策として浮上しています。冬物はどうしてもリスクヘッジで減らす。その分、長袖インナーや秋物の単品を増やす動きが目立ちます。結局、寒くなったらお客様は必要分を買い足すので、そのタイミングでアウターまでセット買いにつながればいい。ただ、冬物は単価が高いので、コート1着売るためにはトップスを3枚分売るくらいのバランス感が必要になる。だからこそ秋物を厚くするメーカーが増えています。
沼田 季節が滑らかに重なり合うようになったことで、夏と秋が並走する時期も増えていますから、端境期にはレイヤードできる商材、単品でも重ねても使えるアイテムが鍵になります。定番の素材を軸にカラーバリエーションを広げて、寒い時は羽織ればいい、暑ければ脱げばいいという調整可能なスタイル提案が、このグラデーション時代には求められていると感じています。
宮脇 その中で、販売期間が長い商品、つまり、季節をまたいで使えるアイテムがより売れやすくなっています。また、暑さを感じる期間が長いため、接触冷感や吸汗速乾といった機能が、夏物だけでなく通年で重要になってきています。一方で、猛暑のあとに気温が20度前後になると逆に寒く感じるケースもあり、冷房環境で過ごす時間が長い人は、単に涼しいだけの機能ではニーズを満たせない。快適性を調整できる素材や、体温変化に寄り添う機能が求められていると感じます。気候変動によって、商品MDも長く売れる多機能アイテムへと確実にシフトしてきています。
西沢 8月初めに入れた最終便については、そこまで強い需要にはつながらず、一部は翌年に持ち越すことにもなりました。しかし、リスクを承知で試みましたが、店頭に8月でも新商品が並んでいるということが小売店さんに喜んでいただき、動きもまずまずでした。
「変わらない力」と「変わる力」との両立
●問われる攻めと守りの店作り
司会 時代に合わせて、小売店は変わらなければならない。
古川 この10年間で、縮小している店、廃業した店も多い一方で、生き残っている店もあります。共通するのが「変わらない力」と「変わる力」との両立です。接客力や顧客との関係性といった変わらない強みを持ちながら、ブランドの入れ替えやEC活用、新しい販売機会の創出など、変化を恐れず取り組んでいる。リアルの売上比率が高い店も多くて、対面の価値が依然として強いと実感します。ある小売店は百貨店減少を受けてイベント販売代行などを始めています。こういう守りと攻めを両立している店が残っていくと感じています。
宮脇 比較的安定して仕入れていただける小売店さんの中には「早く商品を見たい」という声が以前より明確に出てきています。計画をしっかり立てて、早い段階で方向性を固めていく。問題は欲しいタイミングで商品がないというリスクです。今はそれほど店の数としては多くないのですが、リスクに対応していく動きを強めていくお店が増えていくと思います。
西沢 仕入れ方が少し変わってきたと感じます。面白いのは、店内の使い分けがはっきりしてきていることです。奥のほうに大手アパレルから買い取りで仕入れたブランド品を並べて、上質なゾーンとしてしっかり見せる。一方で、店頭にはフックになる手頃で安心して買える商品を展示する。つまり、お客様にはまず入り口で買いやすい商品を見せて惹きつけて、奥の上質なブランド品で価値を感じてもらう。そういう二層構造の売り場づくりをする小売店さんが、最近本当に増えてきたなという印象があります。
沼田 小売店さんは今まで以上にMDに対して慎重です。メーカーと小売店さんの思考が一致してしまっている部分があると感じています。無難な定番に寄せて、数量も冒険しない。メーカーも小売店さんも前年踏襲型のMDが増えています。悲しいけれど、それで売り上げが事足りてしまっているというのが現実です。一方で、売れているものほどすぐに欠品します。追加をかけてもメーカーに在庫がない。こうした在庫の細り方も、その要因になっていると感じます。古川さんのいう「変わる力」は小売店さんにもメーカーにも求められている。
古川 頑張っている小売店は顧客の若返りと入れ替わりが確実に進んでいます。三世代にわたる来店客を抱える店でも、ブランド構成を見直し、20〜30代向けに挑戦するなど、積極的に若い層を取り込む動きを強めています。長年続く店ほど顧客の入れ替わりは避けられず、変化への対応が不可欠となっています。
西沢 昨年1年の動きを見て感じたのは、ちょっとした可愛さが売り上げを押し上げるということです。普通のベストのボタンをハート型に変えてみたら一気に動きがよくなった。デザインのベースは同じなのに、ちょっと見た目が変わるだけでお客様の反応が全然違う。消費者の志向に合わせてほんの少し工夫するだけで客層を広げることができるかもしれません。
商品の価格と価値が問われる商いの1年
●卸が挑む商品提案と小売り支援
司会 今年1年、消費の変化、社会情勢に対応した商品提案が重要です。
西沢 今年は本当に厳しくなると思います。今、円が140円台から一気に157円まで進んでいて、メーカーさんが11月頃に仕込んだ夏物は、原価が確実に上がってきます。実際、うちが今発注している夏物でも、去年に比べて原価が10%上がっているなんてアイテムもあるくらいです。
そうなると、価格も上げざるを得ない。去年と同じ売り値では卸は苦しい。かといって値上げした商品をお客様が受け入れてくれるかどうかは別問題です。ここはもう価格との戦いになります。値上げについていける商品もあれば、価格が上がった瞬間に売れなくなるものも出てくる。今年のMDは、どこまでお客様である小売店さんが許容するかの見極めがこれまで以上に重要になると感じています。
沼田 消費者心理を見ていると、物価高や円安の影響で生活防衛意識はさらに強まると思います。ただ、どんな状況でも年齢を重ねてもおしゃれしたいという気持ちは確実に残っています。
うちの顧客層は、実はハイクラスの方から安くていいという方まで幅広い。でも、その中でも一番厚いのは値頃で、扱いやすくて、着心地がよくて、でも「ちょっと褒められる服が欲しい」という層。ここが小売店さんにとってのボリュームゾーンです。高級すぎても違うし、安っぽすぎても満足されない。その真ん中のゾーンが今年はさらに重要になると思っています。厳しい社会情勢だからこそ、お客様は「ムダ遣いは避けたいけれど、気持ちは上げたい」という方向に向かう。そのニーズに応える商品提案が、今年の小売店さんには強く求められてくると思います。
古川 ファッションは食品と違って価格を上げにくい。メーカーは利益を削るか、思い切って単価を上げるか、そのどちらかを迫られている。今はミドルゾーンが物価高の中で最も厳しい。地方の小売店を回っていると、「客数が取れない分、単価の取れる商品を作ってほしい」という声は確かにあります。客数が減っている市場では、単価を上げることが一つの生き残り策になり得る。
宮脇 私たちのメイン顧客は60代以上がボリュームゾーンです。そうすると、年齢に伴う生活スタイルの変化を前提に考えなければいけない。例えば体型の変化、健康面からくる外出頻度の減少。そうした変化に合わせて、体型をさりげなくカバーできる、着脱しやすい、診察にも行きやすい、家でも外でも違和感なく着られる、といった機能性と見た目のバランスが重要になってきます。
西沢 うちは今後「大人可愛い」をコンセプトにしていきたいと思っているんです。派手すぎず、でも少し遊び心があって、年齢を重ねた方でも取り入れやすい可愛さ。秋のベストなんかでも、その方向性でいくとお客様の食いつきがよかった。結局、お客様は「普通すぎるもの」よりも「ちょっとだけ違うもの」を求めているんだなと実感しています。
司会 小売店の先にいるユーザーの志向を的確に捉えた提案がもっともっと重要になる。
西沢 うちは元々、お客様がリーズナブルな商品を探しに来る店なんですよ。求められているのは、もっと手に取りやすくて、回転しやすい価格帯のアイテムなんです。だからこそ、リーズナブルだけど安心できる商品を徹底して揃える。それがうちの役割だと思っています。
宮脇 結局のところ、「宮入に行けば切らさず持っている」という状態を作ることです。全部を揃えるのは難しくても、このカテゴリーの、このアイテムの、この売れる部分だけは絶対に外さない。そうした軸を明確にしていきたい。そして意思を込めて選び抜いたアイテムでラインナップを組み、専門性を高める方向に舵を切っています。さらに、必要があれば別注もかけます。これは市場にないけれど「絶対売れる」と思えば、数量をまとめて作る。そうした動きを小売店さんにも見ていただいて、意見をいただきながら一緒に将来に向けてのラインを磨き込んでいきたいと思っています。
沼田 うちは一貫して、「今欲しいものを今必要な分だけ今揃える」というスタイルを徹底してきました。気候も需要も読みにくい時代だからこそ、この即応力が一番大事だと思っています。そして、「ないものは探します」という姿勢も崩さない。だからこそ、お客様にはどんどん情報をいただきたい。細かな要望や急な相談があるほど、こちらは動きやすい。
古川 5〜6年前の60代と今の60代はまったく違う。今の50代が10年後に60代になる頃には、選ぶ商品も感度もまったく変わっている。10年前の60代とは完全に別物です。となると、メーカーも小売店さんも高齢層向けという固定概念のままでは対応しきれない。体型変化や生活スタイルだけでなく、価値観やファッションの捉え方の変化に合わせた商品づくりや売り場づくりが必要になります。高齢層は市場規模も大きく、最後まで購買力が残るゾーンです。ここにどう応えるかが今後の大きなチャンスになると思いますね。
司会 厳しい環境を乗り越えるのは、卸と小売店の深い絆とコミュニケーションです。横山町奉仕会は、皆様を全力で支援します。■

